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美術家/若林 薫                                      

わかばやし   かおる
 若林 薫
2022/3~  制作作品




  僕はポスト  S3   アクリル画  

右を見ても左を見ても みんなケイタイを素早く操作しながら
誰かとメールのやりとりをしています
僕の横っ腹にもたれかかってメールをしている人や
台座をイス替りにして電話をしている人も居ます

僕は大きな口を開けて 手紙やハガキが投げ込まれるのを
身動きひとつしないで待っているというのに・・・。
ただ夕方になると仕事で出来た郵便物を持った
かわいい事務員さんが たくさんの封筒を投函してくれます 
それは嬉しい事ですが 僕に背を向けたかと思うとすぐに
カバンからケイタイをとりだして誰かにメールします 
夕食の約束かどこかへ出掛けるスケジュールの 打合せなのかもしれません 

あしたからは大型連休が始まるのです・・・。
Eメールが通信の主要な部分を担う現在
僕は次第に使われなくなり 街頭から姿を消す日が来るのかもしれません

明治4年(1871年)に建てられた僕は 「書状集め箱」と呼ばれていました
木で造られ 家の形をしていました
昭和に入ると赤いだるま型の僕が 主流になって来ました
無駄の多いデザインはどこか暖か味を感じさせてくれますが
クールさには欠けてしまいます
やがてそれも少しずつ姿を変え 現在の四角い形になりました
シンプルで今の都市空間や環境になじむデザインになった反面
無機質で味気の無いものになった様な気がします



   虹がかかる時  S3   アクリル画  
雨上がりの西の空に  大きながかかり
七色の橋を渡る人の群れは 後をたず
鳥達は北の国へ 旅立つ時が来たのです
ひな達は すっかり 大人びた顔をして 
力強く羽ばたき 準備に余念が無い
冬の間にえた 胸の筋肉
長い距離の飛行に えられるはずです
人々は空に向かって 大きく手を
鳥達は旋回しながら 風をとらえ 一気に目的地へ向う
らぬみを続けるさに 心ふるえ
あしたに向って生きる勇気 人はもらう

冬が去り 又春が来ます。
渡り鳥は何万年もの間 同じ営みをくり返して来ました。
変わらない生活は 平凡の様ですが
自然の中で暮らして行く事は 大変厳しい事だと
思います。
ときに人は 平凡な日常に退屈さを感じてしまうかもしれませんが

変わらない事を続けられる喜びに 感謝しなければならないと思っています
大自然の中で 生きている動物や植物に教えられ
生きる勇気をもらう事があります



youtube 「虹がかかる時」

   大移動  S3   アクリル画 
ある日突然軽快な音楽と共に
今までに見た事のない様な建築物の群れが 空一面をおおい尽す
数えきれない程の量でやってきた建物は 無機質ではあるが
都会的でかすかに暖かい感じのする建物です
我々の頭上でピタリと止まりました
建物の開口部へ向って古い街の住人達はひとり残らず
その建物に吸い上げられていきます
動物も植物も虫達もそしてウィルスも みんなみんな吸い込まれます
この建物群を誰がコントロールしているのか 全くわかりません
やがて この群れはゆっくり動き始めます
そして 地上の古い町は そのままその地に残されます
その痕跡も長い時間の中で消滅し 大地に還ります
一陣の風が吹き抜けてその土地は更地となり
草木がおい茂る事となるのです
何百年かの時が経ち 空気や水は浄化され
新種の生命体が誕生する事になるのです
皆んなで大移動した新大陸では 
植物のほとんどが太陽光を必要とせず 光合成も行いません
人々は食べ物を 口に運ぶ事はほとんど無く
一日か二日の中で一度食事をする程度です
中には一度も食事をしない人も居ます
その為 ゴミや排泄物の処理を 考えなくて済みます
人間の体形も大きく変化し始め 身長も体重もコンパクトになります
更に寿命も短くなり20年も生きていれば 長寿と呼ばれる様になります
全ての生命体は短いサイクルの中で
生死を繰り返し更に小さな個体へと変身して行き
最後には手のひらに乗る様な
ちいさなちいさな存在と化す日が 来るのかもしれません

youtube 「大移動」

  春の渚  S3   アクリル画

入江はまだ少し 北風を感じさせるけれど  渚はもう 小魚の群れで お祭り
波打ち際の水しぶきは ほとばしり  春の光に染まって キラキラと輝く
砂浜に千鳥の足跡を追う

子供たちのはしゃぐ声 小犬の散歩 海の贈りものを見つめる少女 何をか想う
白い小石 シーグラス 貝殻は江戸紫
どこからか ピアノとチェロとヴァイオリンの音色
春の海辺の三重奏 初めてときめく 恋の予感

大学入試も終わって 合格発表の知らせも頂いて
全てが解放され 早春の光の中で

今やっと青春を感じている少女が居る 
今まで見えなかった 聴こえなかった 感じなかった物事が一挙に彼女を襲う
波と砂浜が織りなす物語や 海の贈りものに 
遠い異国の人々の生活に思いを馳せたり

又すぐと近くに居る人に恋心を感じ始めている自分に気付き
胸が痛くなるのを
おぼえたりと 春の一日は何かと忙しいのです


youtube 「春の渚」


  春に降る雨  S3   アクリル画 

音もたてず 静かに降る雨は 人の心を やさしくさせる
南の風が ゆっくりと帰り来て ストロベリーの 白い花をぬらし
やかな雨は タンポポたちにも そっと話しかける
それぞれが 小さくうなずき 笑顔を見せる
のどかなひととき 花の香り
春の雨は い色彩と 淡き恋心を 連れて来る


春の雨の中で見る景色は どれも優しく心に映ります。
道ばたの小さな草花を小ぬか雨が

そっと濡らしてゆきます。
その小さな雨粒が集まり小さな水滴になって
となりの小さな花びらの上にそっと落ちて来ます。
南の風に乗って来た小鳥達は 巣作りに余念がありません。
春の雨はその小鳥の翼も濡らします。
木の葉の陰で鳥達は羽根を休め 又いそがしく飛び廻ります。
そんな景色を見ているだけで なぜか心が安らぐ春の一日を描いています。



youtube 「春に降る雨」

  時のかけら  S3   アクリル画 
いくつのも朝 いくつもの夜
いくつもの恋 いくつもの涙
楽しい想い出も 哀しかった事も
いくつもの時間(とき)と共に有る
笑顔が集い 話がはずみ 愉快にはしゃいだ ひとときも
悩みの中で 苦しんだときも
友や家族の励ましに 明日への希望が湧いた日も
きのうときょうの 時の狭間の ひとかけら


年齢を重ねる事は 楽しみや喜びを積み上げる事であり
又苦しみや悲しみも
 積み重ねてゆきます。
些細な事に人は生きています。ひとつの言葉で勇気が出たり

ちょっとした話に心が左右されたり 束の間の出会いに胸がときめいたりします。
ひとつひとつは小さな出来事です。
モザイクタイルの様に1片1片を寄せ集めたものが
その人そのものだと思います。
一瞬の時のかけらの中に人生の全てが有ると思います。
今日一日を大切に生きようとの思いから この作品を描きました。



youtube 「時のかけら」

私にはあなたの悲しみを癒せない  S3  アクリル画 
どれだけの道のりを 歩いてきたのですか?
どんなにひどい仕打ちを 受けたのですか?
安住の地を追われ 静かに眠る場所も無く
寒さにふるえる あなたを こので受け止めてあげることが
出来たなら・・・
なのに私に出来ることは何もない・・・
せめてものめに 両手いっぱいの
り高き 赤いバラをります
生まれた祖国を追放され 流浪の民となってしまった人々・・
やっとの思いでたどり着いた隣国でもこころ良く思われず
自分達だけの小さな村をつくり 片寄せ合い
飢えと寒さに震えながら生きていかなければなりません
耕す土地も無く雇ってくれる人もいない過酷な状況の中
遠くからかすかに聞こえて来るヴァイオリンの音色。
皆の顔から哀しさや切なさが少し消え
中にはその曲に合わせて小声で歌う人も居る。
私には楽器を奏でる技術も、腕も、何も無いのです。
でもただひとつ私に出来る事は、
気高く咲いた赤いバラを両手いっぱいにして
あなたへ届ける事は出来るかもしれません。

そんな思いでこの作品を描きました

youtube 「私にはあなたの悲しみを癒せない」

階段の町  S3   アクリル画 
隣の家へ行くにも 何段何十段もの階段を使わなければ
用事が伝わらない石段の町があります
素早く何かが出来る所ではないけれど 人々は千年以上も
この地に棲み続けています

朝食やお昼の時間が終わり一休みすると
誰もが両手にバケツを下げて 階段を下りて行きます
炊事する水も 洗濯の水も 体を洗う水も 谷底の水場へ汲みに行きます
3000M級の山々に降り積もった雪が
伏流水となって1万年を掛け 水場の湧水に成っています
それはそれは 甘くておいしい透き通った水なのです
この水は身体の中をきれいにするだけでなく 
心のくすみもきれいさっぱり洗い流してくれます
この町に住む人々は 毎日この水を飲んで
健康でそして穏やかです
住人達は幼い時から この階段で足腰を鍛えているので
年老いてもなかなかの 健脚揃いです
街で一番の繁華街のメインストリートも 階段を昇り降りします
通りの両脇に日用品の店や 手造りの土産物を
売るとはなしに置いてある かわいらしいちいさなお店もあります
たまに旅人が訪れますが  必要以上に話しかけたり関わったりする訳でもなく
そっと笑顔であいさつをするだけです

そして人々は晴れの日も 雨の日も 降り積もる雪の日も
黙々と水汲みに水場に降りて行きます



約 束  S3   アクリル画
君が生まれて 家族は4人になりました
仕事が忙しくて なかなか家族とすごす時間
持てなくています
今度今度と言うだけで いつも約束を破ってばかりの父親です
家族もついにはあきらめ模様です
そして君が生まれて ようやく歩けるようになった頃
やっと約束を守れたね
今日は芝生の公園で ボール遊びです
年令(とし)の離れたお姉ちゃんと君と母さんと父さんと
大はしゃぎでボールを追いかけて わざと転んで枯れた芝生を
洋服にいっぱい付けて 大笑いして楽しかったね
この次の約束は海までの散歩です
「絶対絶対守ってね」と言う子供達と指切りをしました
ふたりの成長する姿を見守って行ける
お父さんになる事を約束します



 Sunny town  S3   アクリル画
公募 第5回EggnWorksノートブック 受賞 
お日様の光あふれる町は 陽気で快活な人達でいっぱいです
毎週末の3日間は良く晴れて 住人達は近くの野原や湖でキャンプをしたり
草野球やテニスをして 充実した週末を過ごします

家族そろって買い物に出掛けたり
家庭菜園で収穫や種まきをして
何かを育てる事が楽しみで 週末を送っている人達も居ます
この町は一週間に一度 必ず雨が降ります
それも虹がかかる程度の静かな雨です
七色に輝く大きな橋をこしらえて  町の全てをゆっくりぬらしていきます
花だんの花や鳥達の水場にも やさしい雨を降らします
雨が上がるとお日様は雲のスキ間から
顔をのぞかせて いつもと変わらぬ笑顔で  町の隅々まで照らしてくれます
春は新芽と語らう陽光になって 
夏休みの子供達には 力強い日射しで肌を小麦色にこがし
小春日の午後には  縁側の猫の親子に眠気を誘い
北風が枯葉をゆらし 厳しい冬のおとずれを知らせてきても
お日様は 一年中この町と一緒に居て
私達に 幸福色(しあわせいろ)の光を 届けてくれます


youtube 「Sunny town」

 ほほえむ   S3   アクリル画

あなたはそこに居て 静かな微笑みを とどけてくれます
私達の悩みは消え 苦しみは立ち去って行きます
あなたの深遠な思いと広大な心は 人々を幸せにする慈悲の力で 包んでくれます

あなたが優しくほほえめば 全ての人はあなたへ笑みを返し
心と心は通い合います
小春日の様な アルカイックスマイルが 
世界中に広がる事が 今の時代に最も必要なのかもしれません
争い事を止め ほほえみひとつで 憎しみも 差別も 区別も
何事も解決できたらと思います
穏やかな日々が ずっとずっと続きますように・・・。
世界中が平和でありますように・・・。

アルカイックスマイルとは
遠く遡れば 紀元前のギリシャ美術彫刻の
人物の口元に表わされた 古典的な微笑みを 指す言葉です
後に中国の六朝時代の 仏像や絵画に使用されました
更に日本の飛鳥時代には 
仏像のかすかな
笑みとして表現され 
弥勒菩薩の微笑みに受け継がれています


youtube 「ほほえむ」


 Sunset   S3   アクリル画
その昔 太陽が西の空に沈んでも この街は眠らずにいました
家々には暖かな明りが灯り 新しい家電製品に囲まれて便利さを謳歌し
人々の暮らしは潤っていきました
街は次第に大きくなり それを維持する為に
工場は更に巨大化する事になりました
遠浅の海を埋め立てて工場地帯を造りました
遠方から人々がたくさん集まって 大きな町がいくつも出来ました
いろんな国の言葉が飛びかい 異邦人達のコミュニティーが生まれました
工場は24時間365日休むことなく稼働し 3交代で働く人達とそれを支える人達
工場では化石燃料を燃やして電気を作り 汚れた水は浄化して再生し
その水を又利用する

天然ガスの工場は 各家庭の台所に炎をたえず供給し続け
即座に調理出来 あたたかい食事がいつでも 楽しめる様になりました
そして最近の工場では何でも作る事が出来ます
土を必要としない野菜工場や
あした着る洋服も 自分の体形をパソコンで送信すれば
お気に入りの洋服が工場から直送されてきます
一戸建ての住宅も所有する土地の平面図さえあれば
プレカットの住居がお好みの形で みるみるうちに組み上げられます
何もかもが便利な時代は 無限のエネルギーとそれを支える膨大な人力と
巨大な資金が必要になります
そんな身の丈を越える様な行動を少しつつしみ
肩の力を抜いて ちょっと立ち止まり
廻りの景色に目をやり 夕焼けの空に思いを馳せる余裕を持って
心豊かに生きて行けたらと思います


youtube 「Sunset」


カクカク  S3  アクリル画
幾何形態の円や正方形・長方形・三角形などを使用し 人物を表現しています
寒色を使い 少し肌寒い様子をあらわしています
冷気が足元を通り抜けたり首筋をかすめたりする寒さの中で
体中の関節が油切れを起こし
コクコク・カクカクと音をたててきしむのが聞こえます
手足がかじかんで固まりそうだけど
一生懸命に立ち続けている姿を 描いてみました






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